■二・弄ばれる少女
幾日も彼女を封じている暗い部屋。
遠くから木造建造物の躯体を伝わって爆音が響いた。続いて三発の銃声。そして、もう一度爆
音。その後に再開される二人の男の会話。
「オイ、今の銃声はなンだ?」
「ええ、なんなんでしょうねぇ。気になるなら、あんたが見てくりゃどうですかねぇ?」
「バカ言え。あと少しだッてのに、今更やめられッかよ!」
瞼を閉じている少女の視覚は暗闇。あるのは触感と聴覚のみ。後背から肩口を羽交い絞めに
され、身体を上下に揺さぶられる感覚。膣と直腸を出入りする熱い体温を伴った肉感。
乳房こそ、有るか無いかの未熟さだったが、それでも存在が自覚出来るのは、上体の上下振幅
に遅れて発育初期の乳腺脂肪が揺れ踊り、慎ましやかに自己主張するせいである。
その振幅と同調して、下半身の交合運動から響く淫らな水音。自分の器官から出ているとは信
じたくもない音が、密閉された狭い室内に響き渡っている。家具が一切置かれていない部屋は、
吸音の効果に乏しく、卑猥な音を容赦なく残響させた。
それらのすべても、銃声やら爆音で一時的に中断していただが、男たちの短い会話の後に再開
された。むしろ中断したことに対する興醒めを奪い返さんがためか、男たちの動きは以前にも増
して激しくなっている。
少女の細い手首は頭上で組み交わされ、天井の定滑車から下りるロープによって吊られていた。
長期に渡る血行の不順により、もはやその部分の感覚は失われていた。それだけに他の部位の感
覚が鋭敏になってしまう。
数日前、破瓜の挿入時では激痛だけしか感じなかった肉棒の往還も、今では気持ち良く思える
ことすらあった。数回前の絶頂時から、前後の肉孔が一つになったような感覚が得られるまでに
なっている。行為を一時中断されたことで、その後に再開された感覚に一層と敏感にさせられて
もいる。
やがて、腹腔に快感の波紋が拡がり始める。排便を我慢しているときにも似た、幼児じみた性
的なうずき。
(また気持ち良くなりそう。いやだよぅ、こんなヤな人たちに犯されてるのにぃ!)
少女は、容易に絶頂出来るようにされてしまった肉体に対し、逆比例するかにして嫌悪感を抱
いていた。拒絶しても訪れる快楽に酔いしれるほど、開き直れなかった。
(現実を見なきゃ。汚らわしい男たちにひどいことをされているのを見れば、ぜったいに気持ち
良くなんてなれない!)
そう決意して彼女は、固く閉じていた瞼を開けた。
三叉の小さな銀燭台。その蝋燭の炎だけが少女に視覚を提供する光源。
狭い部屋である。窓はザラ板とモルタルで埋め殺してあって、外部からの光は完全に遮断され
ていた。今が昼なのか夜なのか、それすらも解らない。昼夜の刺激サイクルに乏しい監禁部屋に
閉じ込められてから、淫靡な責め苦の時間ばかりが過ぎ、サーカディアンリズムは完全に失調し
ている。
視界を下げてみた。
小汚い寝台に仰向けになり、自分を下から突き上げている男の姿が見えた。伊達男を気取った
整髪脂で固めた髪型。南方で多く見かける大輪の花柄模様の派手なシャツも、だらしなくボタン
を外して半端に着崩している。いかにも破落戸といった風体だ。ズボンを脱ぎ捨てて剥き出しに
なった下半身は、痩せ気味でグロテスクだった。
もう一人、肩先を羽交い絞めにしている多毛で脂肪質な腕の主は、自分の排泄孔を異用途に占
領し、デリケイトな直腸粘膜を欲望のままに蹂躙している男だ。その体格は、僅かに見える腕と、
背中に始終当たる不愉快な腹部脂肪の触感から、かなりの肥満体型であると解る。
さらに視線を落とすと、自分の産孔を貫く卑猥で憎むべき動作が、なだらかな二つの乳房越し
に見えた。
本当に憎むべきものだった。半月も前、遺跡を求めて森の中に入ったときに同行者とはぐれ、
山賊の『性奴狩り』に遭遇して捕縛された。山賊には犯されなかった。性奴狩りを生業とする彼
らは、生娘の商品価値を知っていたからである。気味の悪い老婆による処女判定ののちに縛鎖の
身とされ、なにがなんだか解らない間に地下市場で競売にかけられた。
そして売られた先が、このボータス市のジタオギルドだった。その日から、数十人といる男た
ちの、ただ快楽を得るための慰み道具として犯されている。
容赦ない輪姦と放出。人権を無視され、女としての弱みを踏みにじられ、何人もの男たちに数
日にわたって幾度となく胎内に子種を撒き散らされた。今も絶え間なく接合部から溢れ流れる汁
には、もし孕んでしまえば父の正体すら解らないほどに何十名分もの精液が混濁している。
唯一の救いは、少女がまだ初経を迎えておらず、ゆえに妊娠する可能性が皆無なことだけであ
ろうか。
(お願い、私の体。もう気持ちよくなっちゃダメぇ。こらえて!)
少女は自らの肉体に訴えかけた。快楽に堪えるべくして上体を反らし抵抗を試みる。
「おらよッ、抜けちまうだろうがッ!」
その仰け反った姿勢が不都合だったのか、背後の肥満男が丁寧に編み込まれた少女の毛髪を掴
み、体勢を前傾気味に戻そうとする。肥満体の分際で、陰茎は常人よりも粗末であったため、体
勢が悪いと肛門から抜けそうになってしまう。それが忌々しいのか、怒りを込めて半ば八つ当た
りで少女の抵抗を制したのだ。
「あぅんっ!」
虚を突かれた少女は、意外なほどに色っぽい悲鳴を漏らした。天井の滑車が騒がしく音を立て、
ロープが緊張する。華奢な両腕は、無理な角度で後ろ上方に引っ張られ、その体勢で控えめな乳
房もほとんど張り伸ばされて膨らみを失った。貧相な胸囲の上で、先端の小さく淡い突起だけが
ぽつりと目立つ。
下から仰臥で少女を突いていた伊達男は、その有様に興奮したのか、香水臭い双手を伸ばすと、
狭い間隔で並ぶ乳首を指できつくつまんで引き寄せた。
「――っ、痛いぃっ!」
まだ正しく使用されることのない授乳器官に走った痛みに耐え切れず、悲鳴をあげる少女。そ
れでも伊達男の手悪戯は止まらず、僅かな掌握点だけで、さらに強引に少女を引き寄せるべく企
んだ。
「いたいっ、いたいよぅっ、やめっ、やめてくださいぃ!」
その甘ったるい哀願が、二人の犯し手をより興奮させてしまうのは、この状況からすれば当然
のことだった。前後から少女の肉体を蹂躙していた男達の動きは、ますますと激しくなる。
肥満男の粗暴な鷲掴みに堪え切れず、たび重なる陵辱でほつれかけていた少女の見事な編み込
み髪が、いよいよ儚くほぐれた。一度ほぐれてしまうと、あとは激しい動作でどんどんと解かれ、
やがて、腰まではあろう細い黒髪が空中に舞い踊る。
本来ならば美しい直毛なのだろうが、編み癖が残ったそれは、貴婦人や娼婦に流行している舶
来のパーマネントヘアに似た妖艶さで舞い、少女の貧相な身体やあどけない風貌と奇妙に反発し
て一風変わったエロスを提供した。ハラリハラリと舞う髪の合間から覗く少女の表情は、実年齢
を無視した色気を漂わせ、下方正面から臨んでいる伊達男をより一層欲情させてしまう。
「ぐはぁッ、コイツはたまりませんねぇ」
伊達男の賞賛は嘘ではない。確かに少女は美しかった。まさに「美少女」である。この時代の
この国の美少女としての最大要素、「華奢な印象」をしっかりと兼ね備えていた。今にも手折ら
れかねない花にも喩えられる儚い弱さ。
歳の頃は十代前半であろうか。黒い瞳が印象的な、あどけない顔つきだ。成長過程にある鼻梁
も高くなく、繊細なイメージで顔の中心にちょこんと座り、幼い美少女ぶりを演出している。昨
今、流行となりつつある目鼻立ちのしっかりした西洋人風の美女と比べて、異なった美しさの持
ち主。すっきりとして繊細な面持ちの、所謂『バルマ風美人』であり、島内ではとくに『北西美
人』や『草原美人』とも呼ばれる部類の美少女である。
さらに特筆すべきは、髪の美しさだろう。黒髪は艶を含んで細く、薄暗闇のわずかな光源でも
黒真珠の光沢をもって輝き、舶来人には無い東洋人種ならではの美を誇っていた。
その美髪も男たちの陵辱で舞い踊らされていた。少女の視線は快楽に戸惑いつつ虚ろに宙を舞
い、やがて乱れた髪の狭間を通して伊達男の視線と合ったところで止まった。
「あら彼女ぅ、オメメ合いましたねぇ?」
正面の、伊達男を気取ったチンピラが少女に問いかける。言い草までも似非に伊達だ。
「ウヒヒ、じゃぁ、ぼちぼちイクッてことだな。解りやすいガキだぜ」
背後の肥満男が応えた。こちらは至って自分の欲に忠実な喋り方である。
ここ数日、彼女を犯しているジタオギルドの破落戸たちの間で、このことが話題に幾度も上が
っていた。つまり「あのガキは、イク前に必ず犯ってるオトコの目を見るんだぜ」と。
少女にしてみれば、そんなつもりは毛頭も無く、理不尽に気持ち良くされるのを否定するため
に汚れた現実を見ようとしているだけだった。だが皮肉にもそれが、彼女が絶頂の直前にあるこ
とを第三者に報せるサインとなってしまっていた。異常でエロティックな光景を目視してしまう
こと自体に、絶頂をより強烈に誘引させる効果があることに気付いていないあたり、やはり少女
の性への疎さも問題があっただろう。
いずれにせよ、性の極みに昇りつめてしまう寸前において、少女は必ず犯し手の行動を凝視し
ていた。そしてそれは、男たちにとって非常に便利なサインでもあった。ギルドの破落戸にして
みれば、性奴を犯すことは札遊び賭博のゲームとさして変わらない。そのゲームをより楽しむた
めに、射精に達するさい、女性器にも最大能力の発揮を期待するのは、当然のことだった。絶頂
時における肛門括約筋の不随意な伸縮動作は、男に「締まりの良さ」という快楽を与える。だか
らこそ男女同時の絶頂は大事な要素であり、またゲームの勝利条件でもあった。
あるいは、自分の性器で女を果てさせるということは、男としてこのうえなく自尊心を満たせ
る行為でもある。世の男性の多くが非望として抱く「女をイカせる優越感」を満たす娯楽。
そのゲームを有利に運ぶためには、この破落戸たちは手段を選ばなかった。媚薬、麻薬、魔薬
などの違法薬物を使うことに禁忌すら感じない人種である。この少女が今この時点で、薬物の害
を受けてない可能性は低かった。そこまでしてでも満たそうとする男の自尊心。確かに瑣末な矜
持ではあるが、盗賊たちのゲームには重大な要素であった。
「ガキの分際で男に媚びて果てるなんて、とンだズベタだねぇ!」
(違うモン、あたしそんなコじゃない!)
伊達男に揶揄された少女の心中に否定の悲鳴が響く。だが、膣壁の快楽は徐々に拡がり始めた。
「乳首引っ張られて、前後挿されてまでヨがッてンだから、モノホンのインランッてワケだッ!」
(違う、違うってばぁ! あたし、こんなのヤなのにぃ!)
背後からの下卑た言葉を否定しても、直腸は第二の膣と化しつつあった。
閨房の事情に疎かろう少女の儚い願いなど嘲笑うかのごとく、現実は残酷だ。
そしていよいよ、肉体は心の抵抗命令を完全に拒否する。
前後の器官が一つになる錯覚を伴う絶頂感。快楽が背骨を登って進軍し、脳に攻め入って理性
という名の抵抗分子を掃討する。電撃作戦さながらの蹂躙に、瞬く間に思考は敗残する。
少女の頼りないほどに細身な上体が、銛で撃たれた魚のごとく跳ねてのけぞった。
(いやああぁっ!)
激しい無意識の動きは、強い力で乳首を束縛していた伊達男の指さえも振り解いてみせた。天
井の滑車が、ガンラガンラとけたたましく騒ぐ。
少女にしてみれば本当に嫌だった。また気持ちよくされてしまう自分が嫌だった。自分の身体
なのに、思いどおりに制御出来ない淫らな身体。
だが、股間の交錯する筋繊維は、主の拒絶を嘲笑うように、生理的な機能で激しく脈打っては、
男の精を受け入れることに従事してしまう。ただひたすらに、男たちを喜ばせるためにビクンビ
クンと規則正しく脈打つ未熟な肉筒。
「ぐぉ、イキましたかねぇ。うぉぉぉっ、モトが小さいだけに、凄い締まりだねぇっ!」
「コッチも締まりまくッてるぜッ! ちぎれちまいそうだッ!」
男たちが往還運動をしつつ、求められてもいない賛辞を口々にした。
(そんな汚い言葉であたしをいじめないで!)
阻めない激しい快楽に、それでもなんとか抵抗しようと堪える少女。だが、不謹慎な悦楽は、
さらに強度を増してゆくばかり。
「じゃあ俺もイカしてもらいましょうかねェ」
「おぅよ、こっちも出ちまいそうだッ!」
二人は確認し合うや、協力して動きを激しくした。二次性徴期を迎えたばかりの、まだ華奢で
頼りなく、それでいてかろうじて女を匂わす身体は、ひたすらと煽情的な動作によって、波涛に
襲われる小船のように踊らされた。滑車の音と、肉の当たり合う音と、汁の音。
「あっく、かふっ!」
少女の吐息にも似た抑えた喘ぎは、望まい絶頂を悟られまいとする最後の抵抗であり、忍耐で
もあった。それでも淫靡な粘膜で内装された肉壷は、依然として素直に激しい収縮を続けている。
少女でありながら、憎むべき薬物と男たちによって淫らに開発されてしまった秘肉は、基本的な
部分において立派に牝であり、ゆえにその頂点の継続時間は、刹那で儚い男のそれに比べて遥か
に長かった。
「おら、イッたンなら、もっと大声出せッてよッ!」
言うや肥満男は、背後から留守になったばかりの少女の乳首をつまんでねじった。
「ぅひゃぁっ!」
予期せぬ痛感から、少女は悲鳴を上げてしまった。心得たかにして、タイミングを併せて男た
ちの動作は激しさを増す。
「あぁ〜っ、あうっあぅっ! やだぁっ、やっ!」
一度増した喘ぎの声量は、再び絞られることはなかった。少女の最後の抵抗も、犯し手たちの
波状攻撃の前に潰えたのである。
「や〜っ! や〜っ! あぁ〜ぅぅ!」
下半身が全身に伝える悦楽の前に、少女は狂わされて絶叫を続ける。
「出しますよっ!」
「ぅ俺もだぁッ!」
ただでさえ狭隘な少女の膣と直腸の強烈な収縮に、射精を催した男たちが、わざわざと自分の
行動を解説する。そうすることで自分を高揚させると共に、少女への加虐感をより確かにしよう
としていた。
「だめっ、だめぇっ! あう〜っ、あう〜っ!」
否定の言葉は、内部に放出されることへの拒否か、あるいは達し続けてしまっている自らへの
戒めか。
扉が開き、廊下の光を薄暗い部屋の中へと導いた。
だが、行為にいそしむ男たちにとって、それはさして重要なことではなかった。日頃から、順
番待ちにしびれを切らした他の男たちが、急かす目的で交代時間前に入室して来ることも少なく
なかったし、逆にそういった連中に己の肉茎で少女を果てさせる瞬間を見せ付けること自体にも、
僅かならぬ優越感があった。
なにより行為の末に果てようとしている盗賊たちの思考は、男性の短い享楽に向けて集中され
ていた。それまでの過程は、すべてこの瞬間のための下準備でもあるのだから。
いよいよ肥満体の盗賊が限界に達し、直腸への放出を始める。
「がぁッ、出るッ!」
肥満男の体格にそぐわぬ粗末な陰茎ポンプが脈打ち、陰嚢から精を汲み出しては、少女の排便
器官へと射精を始めた。
だが、それは最初の勢いの良い数回だけでとどまった。射精を指示していた彼の発令所、つま
り脳が消失されたからである。
少女は、背後からの、まるでキャベツを手斧(チョウナ)で両斬するような鈍い音を聞いた。後背か
ら乳首を引き千切らんばかりに挟んでいた肥満男の握力が一瞬だけ強まり、直後に脱力する。肥
満した腕がダラリと垂れ下がり、背中に覆い被さっていた不愉快な脂肪の感触も失せた。
伊達男に突き上げらている少女の余勢に弾かれて、後ろに崩れ落ちる肥満体。直腸を占拠し、
白い勝利条件を放出していた粗末な代物も抜けた。
片時ののち、少女の視界に赤い飛沫が舞い、小汚い寝台とその上で仰臥して行為していた盗賊
へ、にわか雨となって降り注ぐ。
「なッ、なンだッ!?」
突如浴びせかけられた赤い雨で異変に気付き、射精の瞬間にあった伊達男は、腰の上下運動を
中断すると、少女を跳ね除けて結合を解除した。盗賊らしい俊敏さで即座に寝台に立ち上がって
状況の理解に努める。
伊達男が見知らぬ巨漢がいた。その右手には、法外な大きさの斧が握られていた。眉間や喉元
には銃弾を埋め込み、さらには自らの血か返り血か、全身に大小無数の血河があった。致命的と
しか考えられない盲管銃創を正中線に受けてなお、凶獣と喩えても足りないほどの形相で仁王立
ちするその印象からは、人間としての尋常さは微塵もうかがえない。
(か、怪人?)
伊達男がそう心中で錯覚した眼前の対象は、つい先程このギルドの支部長を倒したばかりの
カースの斧使い、大ロントルであった。かたわらには肥満男が倒れている。その頚は、数歩も離
れた場所で、驚愕の表情のまま凍りついて転がっていた。
「なッ、あ、はいぃっ?」
即座に状況を理解出来なかったのか、街の浮気男よろしくめかした盗賊は、場違いに間の抜け
た声をあげた。混乱しながらも、絶頂で不可逆位置まで到達していた精液を、宙空に発射する。
著しく右曲がりに反った伊達男の陰茎から発射された白い液弾は、寝台の上で滑車から半吊りに
されている少女の裸身へと降りかかった。
闖入者の持つ大斧が一閃した。伊達男の両脚が、膝の高さで横薙ぎに切断された。とても近接
兵器の届く位置からの攻撃とは思えないスゥイングだったが、レベラの能力に支援された攻撃は、
多少の物理法則すら無視し、哀れな被害者を一瞬で不具の者へと化した。
伊達男の身体は、達磨落としさながらにして寝台の上へと倒れた。倒れたというよりは、支点
を瞬間で失って後ろ倒しになったのだから、落ちると表現するのが正しいだろう。
「立」つ機能を失っても、まだ「勃」って射精している姿は奇妙であって、滑稽かつ不憫ですら
あった。
「ちょッ! ちょっと待ッ――!」
「――てくれ」と続けようとしたのだろう。だが大男の斧は、膝より下を失って寝台に仰向けに
倒れていた盗賊の口を直撃した。
上大半が斬り跳ばされる伊達男の頭部。天井や、数歩も離れた不潔な板張りの壁面に、骨片と
髄質を伴った肉塊が、半固まりの石膏を叩き付けるような音を立てて張り付き、血の斑点が部屋
の中を装飾した。
斧からは淡黄色の『戦意』が発生していた。それは余力で寝台までを粉砕し、瞬く間に木片の
瓦礫と化す。乗せられていた寝台を破壊され、そこで天井から半吊りにあった少女も、爪先がか
ろうじて床に届く程度に、ほぼ宙吊りとなった。
「あぁうぅっ!」
全体重が、麻痺していたはずの手首、あるいは肘や肩に負担をかけ、感覚を蘇らせた。その状
況でも望まない絶頂の最中にあった小さな膣は脈打ち、淫汁を噴出させ、彼女の内股に幾筋もの
淫液の流れを作り出しては、穢れた斑を床と寝台の瓦礫へとこぼす。
大斧を持った闖入者はその痴態を見やった。滑車とロープで吊るされた少女は力なくうなだれ、
その柔らかで熟れていない身体の随所に、血痕を受けて滴らせていた。
少女の内腿を這う激しい情交の証を確認した大ロントルは、血相を変えた。
「小ロントルぅ、てめぇ……」
カースの継続状態なのか、大男には人間としての理性が感じられない。躊躇も無く怒りを行動
に直結させ、得物である轟斧を床に叩きつけた。成人男性が両手でも振り回すのがやっとであろ
う代物は、豪快な打撃音を立てて木の床を激しくえぐると、何度かバウンドして部屋の隅へと吹
き飛ばされた。
「ひっ!」
その形相と行動を見て、小ロントルと呼ばれた少女は怯えた。
初見の事象に対する恐怖ではなかった。小ロントルは、大ロントルとのカース状態を、過去の
何度もの経験から嫌というほどに知らされていた。その力で何度も窮地を切り抜けたこともある
し、げんに今もその力のお陰で救出されつつあるのは解った。
だが、いつもとなにか違った。
「何人だっ!?」
「え?」
「何人に出されたかって訊いてんだよっ!」
言うや容赦ない大ロントルの張り手が、吊るされた状態にある少女の頬を張った。
「あうんっ!」
質量を伴った豪快な張り手は、叩くというよりも殴るといった塩梅で少女を打擲(チョウチャク)し、
重量に乏しい華奢な身体を振り子状に舞わせた。ロープがギシギシと軋みを立て、滑車がけたた
ましく騒ぐ。その振幅が収まると、小ロントルの口の端から、血の糸と表現するには余りに多量
の血が、涎の泡を伴って流れた。
「そんな、出されたって……」
声を絞り出すと、小ロントルは上目遣いで怯える。
今日の大ロントルはいつもの大ロントルではない、と少女は感じていた。カースの支配下にあ
っても、今までこんな仕打ちは受けたことがなかったからだ。
確かにカース状態の大ロントルは凶暴になるし、その状態での戦闘では、容赦がなくなること
も熟知していた。だが、それはいつも同行者――とくに小ロントル自身――に及ぶ危害を排除す
るための豹変であって、前古未曾有、小ロントルに危害が加えられたことはなかった。だから少
女はこの巨漢に絶大の信頼を寄せていたし、敬愛すらしていたのである。
普段ならば敵対存在を排斥し、身の危険を感じられなくなった時点で収まるはずのカース状態。
だが眼前の大ロントルは、依然として狂った形相のままである。カース状態を収束できない危険
因子が、まだこの周辺に残っているのだろうか。それがどこにあるのか、小ロントルには解らな
かった。
「ここに何人に出されたって訊いてんだぁっ!」
大ロントルは巨漢に似つかわしくない素早さで少女の股間に手を運ぶと、潤沢を失っていない
膣口に太い中指を立てる。早い進入速度で秘唇に突き入れた指と共に空気が入り、間の抜けた音
が響く。
「あぅぅっ、痛いっ!」
「痛ぇのは俺様の心だっ!」
怒号を上げながら、大ロントルは人差し指と薬指さえも挿入した。狭隘ながらも何十人もの男
によって開発されていた陰部は、意外にもすんなりとそれを受け入れた。それがまた、大ロント
ルの怒りの炎に、新たな油を注いでしまう。
「このふしだらマ○コがぁっ、偉大なる『ロントル』の名前を汚しやがってっ!」
「ごめんなさいぃっ、許してっ、許してくださいぃっ! あっくぅっ!」
小さな膣に挿入された三本の指。その激痛に堪えながら小ロントルは謝罪した。
両者の間にどのような主従関係があって、少女がこの状況で謝罪せねばならぬのか、理由は知
れない。それでも今この瞬間、彼女には謝罪することしかできなかった。大ロントルの指が狭い
膣の中で狂い、小さな秘裂を哀れなまでにかき乱し続ける。
「痛いっ、あっ、ゆっ、許してっ! ごめんなさいっ、あひっ!」
少女はかろうじて届く地面に、爪先立ちになって腰を浮かし、内部をかき乱す指から逃れよう
と必死に試みるが、宙吊りにされた体重のほとんどを大ロントルの指によって支えられているの
だから、それが叶うはずもなかった。
ますますと熾烈を極めてゆく大ロントルの指のえぐり。ねじりを伴いながら何度も激しく膣内
を前後する。どうやら内部に残っている盗賊たちの精液をかき出しているようだ。いくらかき出
したところで、数日前から何十回にも渡って放出された精液を拭い去ることは、出来ようはずも
ない。少女小ロントル自身から溢れる蜜汁も含めて、内部の淫らな湿潤を拭い去ることは不可能
だった。
「くそっ、鼻糞ヤロウ共の精がっ! くそっ、くそっ、くそっ!」
限界を感じたのか、ついに大ロントルは行為を中断した。
膣を開放された少女は、一瞬の安堵に包まれた。だが、
「畜生、鼻糞ヤロウ共らがっ! こうなったら……」
悪態をつきつつ大ロントルは、おもむろに麻のズボンを脱ぎ始めた。その状況を見た小ロント
ルには、次に行われることを即座に想像出来てしまった。彼女自身、通常ならば性体験すら微妙
な年齢の少女ではあったが、ここしばらくの非道な体験で、自分の女の器官が、どうして男を受
け入れるかを知ってしまっただけに、想像することが容易だったのだ。
「大ロントル様の偉大な聖ちんこで、オマエのケガレを清めてやるっ!」
大ロントルは、その上体にも劣らぬほどに逞しい下半身を晒すと、そこに屹立させている男根
を少女に向けた。
赤黒く逞しい男根は、衝天せんが勢いで反り返り、その先端は既に予行の汁を流している。小
ロントルにとってそれは、至近の数日で受け入れた盗賊たちのいずれの肉棒よりも強大で硬質に
見えた。
「お願いですぅっ! やっ、やめてくださいぃっ!」
困惑と動揺を含んだ口調で小ロントルは哀願した。確かに現在の小ロントルにとって守るべき
貞操は皆無だった。盗賊たちに売買され、監禁され、慰み者にされた中で、彼女の理想や願いは
残酷な現実によってに打ち砕かれたし、もはや普通の少女としての淡い恋物語を含んだ処女喪失
の夢など瑣末も残っていなかった。それでもなお、彼女には守りたいものが残っていた。
(あぁ、もぉダメなの? 私の最後の願いまで消えちゃうの?)
手首で天井から吊るされたままの状態で、小ロントルの下半身が抱え上げられる。
(だめ、あなたを尊敬しております。偉大なる大ロントル様をっ!)
小ロントルは、この狂える巨漢に心を寄せていた。カース状態になったときの大ロントルは恐
ろしいし、その粗暴な行動には目を覆いたくなることも多い。だがそれは、すべて自分の身を守
ってくれるための気持ちの過剰な現れであることを少女は知っていたし、だからこそ、身も心も
預けて旅が出来た。そうやって心身の多くをゆだねた相手を、まだ大人の世界を知らない少女が
敬い、その感情が愛に発展することは、よくあることである。とうぜんその幼い愛には「性」と
いう存在の介入はなかったし、むしろ否定されて然るべき汚い存在であった。
それは見知らぬ盗賊による破瓜の陵辱を受けても、変わることはなかった。輪姦されている最
中でも自ら死を望まなかったのは、この大ロントルを思う気持ちがあればこそであった。身体は
穢れてしまっても、心に抱く思いは不滅であると信じていたかった。
だが現実は違う。今、少女を蹂躙しようとしているのは、心に残った僅かな愛の対象。そんな
最後の心の拠り所でもあるその大ロントルに、今まさに犯されつつあった。
大ロントルの逞しい両腕が小ロントルの華奢な大腿を掴んで左右に割った。凹角まで開かれた
大腿に引き拡げられ、潤った秘裂が力なく開くと、その数倍はあろう直径の大ロントルの陰茎が
あてがわれる。
「お願いですぅっ、許して下さいぃっ!」
だが大ロントルの巨根は挿入された。
「いやぁ〜っ!!」
先端部のうちは少女の許容量で足りたが、雁首にまで到達する頃には早くも限界が訪れた。
秘密の時計盤が六時の場所で裂ける。
「うぁぁぁぁ!」
会陰の痛みに悲鳴を上げる少女。挿入の包容感――というよりは圧迫感――を感じた巨漢の大
ロントルは、そこでしばらく留まって結合部を見た。それ以上の挿入は、少女の陰部を破壊する
としか思えない状況である。
だが、巨漢は進撃を続行した。雁首を超えると、あとはもうただ太いばかりの肉の幹が続く。
巨大な物体が小さい受け入れ口に入って行く姿は、さながら奇術的でもあった。秘唇はすぼめら
れて内部へ巻き込まれ、粘性を提供できない部分までもが押し込まれ、少女の無毛な恥丘が蠢き
脈動する。
「ああああああああっ!」
少女の叫喚。かつて前後を同時に挿し貫かれたときでさえあり得なかった激痛が、秘孔の全体
に走る。それほどに大ロントルの陰茎は、巨大さを誇っていた。
やがて自分の一物が少女の中に半分も入りきらない事実を知った大ロントルは、それでも射精
に至る努力を始める。両掌だけで一抱えにできそうな華奢な小ロントルの腰を掴むと、激しく前
後させた。
「うああああああぁぁぁぁっ!」
少女に快楽などあろうはずがなかった。あるのは気が狂うほどの痛みだけだ。抜き挿しされて
迸る淫汁と共に噴出する破瓜とは異なる血流。
「うぉぉっ、狭すぎるっ! だが……最高だぁぁぁっ!!」
大ロントルが少女の内部を堪能しながら吠えた。具体的に「最高」なのは、容量の小ささが提
供する高い圧力のことであろう。普通はそれだけの圧力がかかれば、快感よりも痛感が男の肉棒
を襲うものである。だが、少女の秘壁が大量の粘液でまみれているために、男の痛感はさほども
無かった。あるいは大きさばかりで硬度に乏しい一物であれば、ぞんがい苦痛もあったかもしれ
ない。耐えられたのは、それをものともしない硬度を、大ロントルの男根が持っていたためでも
あろう。
「畜生ォォォォォッ! こんなケッサクマ○コを、あんな鼻糞ヤロウ共に先取りされたのかァァ
ァァァッ!?」
怒りが大ロントルの心に充満し、それが動作をより激しくさせる燃料となった。
「痛いぃっ、痛いよぉっ!」
悲痛な小ロントルの叫びすらも、大ロントルの高揚感を促進させるだけだった。
「ぐうぅぅおぉぉ、最高の膣だっ! 今まででこんな最高の締まりは無いィィィっ!!」
吠える狂人。もはや巨漢の脳内には、陵辱している膣の感覚しか存在していなかった。目を閉
じ歯を食いしばって、ただ陰茎の先端が味わう快楽に酔いしれている。
相手を見ていない大ロントル。つまるところ、誰でも良かったのだ。相手を誰だか認識する必
要もなく、性交の快感だけあれば小ロントルでなくても、もしや牝コボルド鬼でさえも良かった
のかもしれない。そう思うと、少女小ロントルは、紅潮した頬に涙を落とした。そして引導とも
思える大ロントルの絶叫。
「もっと早く犯っときゃ良かったァァァァァッ、ど畜生ォォォォォォッ!」
少女は、どんな凌辱を受けても、心に由来して涙を流したことはなかった。痛覚への反応とし
ての涙ならともかく、本当に悲しくて流した涙は皆無だった。それは、あの汚らわしい盗賊たち
に犯されている最中でも、同じであった。それなのに。
(あぁ、あなたもあの盗賊たちと同じなの? 欲しいのは気持ちよさだけ……)
そう思うと堰を切った涙は洪水となって止まらなかった。少女のかろうじて残っていた憧憬に
似た淡い恋心も、その対象である大ロントル自身によって完膚なきまでに打ち砕かれたのだ。
小ロントルにとって陰部の激痛など、もはやどうでも良くなっていた。身も心もすがる場所を
見失った時、彼女自身その人生がどうでも良くなってしまった。
(大好きだったのに……尊敬していたのに……)
「がはァァァァッ、ロントルマ○コォォォォォっ、さいこォォォうひィィィッ!」
小ロントルの悲しみなど無視して猛り狂う大ロントル。
(もぉ、死んじゃいたい……)
それは慣用的な「死にたい」ではなかった。小ロントルは本当に死んでしまえるなら、今すぐ
この場で死にたかった。尊敬し、淡い恋心を寄せていた相手からの陵辱は、そこまでの絶望を少
女に与えた。
そのとき、彼女の脳裏でなにかが反応した。眠っていたなにかが「覚醒した」と表すべきだろ
うか。意識の深淵で、過去のある時から眠っていた意識。心の引き出しの最も奥、使用者ですら
存在を忘れていた領域にあった僅かな意思。
――魂ガ死ヲ望ムハ、ろんとるノ真意ニ逆ラウ……
彼女の脳に誰かが語りかけた。それは言語ではなく、印象としての語りかけである。
(誰なの?)
少女の疑問は、至極当たり前のものであった。しかし、返答は無い。ただ容赦なく、洗脳呪文
のように少女の脳内を占領してゆく声。
――ろんとるノ名ヲ継ギシ者……汝ノ定メヲ全ウシ、ソヲ世ニ広メルベシ
(あ? あ? 私が……消えちゃう?)
――死ヲ望ムナカレ……偉大ナルろんとるノ名ヲ絶ヤスナカレ……
(あ、私が……消え……)
――ろんとるノ名ヲ絶ヤスナカレ……
(あ……)
脳裏に渦巻いたのは呪詛であった。
大斧使い大ロントルのカースの影響か、あるいは少女自身に眠っていた別の呪詛によるものか、
その正体は解らずとも、この二人は『ロントル』という名の呪詛により支配されていたのは事実
だった。
いまや、少女としての儚い心を「呪詛ロントル」が完全に支配していた。
呪詛は、偽りの感情を少女に植え付ける。昨日までの敵でさえ突如として帰依させんばかりの
理不尽な支配力。それも強大な呪詛の力をもってすれば容易なことであった。
(そう、私は……大ロントル様の……お役に立たなければ……大ロントル様の望むままに……)
自らのものではない思考が少女の精神を支配し、まるで凶悪な外来生物が帰化するように、彼
女の本来の心を侵していった。
一方で、大斧使いの偉丈夫は、少女の膣による強烈な圧搾感に堪えきれなくなったのか、ある
いは射精を制御する気がまるで無いのか、既に子種を発射寸前にあり、あいかわらずきつく瞼を
閉じたまま眉間に皺を寄せ、全力で少女の膣を突きまくっていた。深度は、挿入当初に比してか
なり激しくなっている。少女の内壁の随所も損傷し、出血がおびただしい。
「があああぁぁぁぁぁッ、たまんね〜ッ! サイコ〜だッ、ロントル膣ゥゥ〜ッ!」
吼えながら、まるで玩具のように少女を揺さぶりつつ、大ロントルは至福に到達しようとして
いた。二人の接合点からは、血流が迸り凄惨な残滓を床に刻み付けて行く。
もはや、ロントルの呪詛に制圧された少女小ロントルに、先程までの痛感は無かった。擬似的
な幸福が小ロントルの腹腔を満たし始め、大ロントルの精を全身の細胞が欲した。
「ああぅ、大ロントル様ぁっ!」
甘い声。いつもの少女の声でありながら、少女とは思えない妖艶な口調で喘ぐ小ロントル。頭
を激しく前後に振るたびに、結い癖の残った美髪が舞い踊り、より艶かしさを際立たせる。
「ぐあァァッ、来た来た来たァァッ!」
同じくカースの継続中にある大ロントルも、その少女の異様な豹変振りに気付くはずもなく、
ただひたすらに、男の達成へ向けて全力で行動していた。
「あっ、愛してますぅっ、あなた様を愛してますぅっ! だからっ!」
激しく揺らされながら、頬紅をしこたま塗り込んだような紅潮を伴い、恍惚とした表情の少女
が叫ぶ。
確かに呪詛が発動してなかったとしても、少女の心中に大ロントルに対する愛はあった。それ
は劣情を含んだものではなく、敬愛としての情である。しかし、今ここに存在するのは、男の精
を求めるだけの淫愛だけ。
「全部愛してるからっ、だからっ、だから、中に、中に出してぇっ!」
初経も迎えてない少女の求めではない。心の大半を呪詛に占領され、唯一残る純粋なはずの淡
い恋心すらも歪曲され、淫らな求めの原動力とされている。それでも、その「中に出して」とい
う甘く激しく欲求の言葉が、男の堤防を決壊させるきっかけとなった。
「ごゥワッ!」
巌の肉体にふさわしい豪快な声と共に大ロントルは放った。呪われた青年の著大な陽物は激し
く脈打ち、白汁を少女の肉壷に送り出す。その放圧は、間隙無く密閉された少女の膣の中で暴れ
狂い、男が達成したことを淫器の主へと伝えた。
同時に小ロントルの括約筋も無類の激しさで収縮し、男の精を一滴でも多く授かるために膣壷
をビクンビクンと脈動させた。
「あ〜っ、凄い、熱い、いっぱいぃ、いっぱいぃ〜っ!」
「ンがァァァァァァァッ!!!」
「たくさんっ、こんなにたくさん〜っ! あっ、愛してるぅ、愛してますぅっ!!」
二人は呪縛によって狂人の絶頂へと達した。男はすべての精子を絞り出さんとの最後の奮闘を
継続し、少女はそのすべてを受けるべく身を任せて揺らされた。
偽りの幸福が二人を満たす。
しかし……。
虚飾の合歓が繰り広げられていた狭い部屋に銃声が響き渡った。大ロントルの右上腕から、血
飛沫が弾ける。
弾丸の発射元は、開け放たれたままの出入り口だった。そこには、マスケット銃を放ってなお、
矯めたままの軍人がいた。銃口とフリントロックから細い煙がたなびいている。その両脇を固め
ている膝立ちの四人の手にも、量産型マスケット銃が構えられていた。濃紺の制服に簡易革鎧を
着たその集団は、ボータス治安軍の治安兵である。
「動くなっ、大量殺傷の現行犯で逮捕する。おとなしく召し取られよっ!」
放銃した体勢のまま中央の、恐らくは隊長格であろう治安軍士官が告げた。隊長にしては若く
も見えるが、襟章が他の四名よりも立派であることから、彼が最も格上であるに相違ない。素な
ら甘そうなマスクの好青年だろうが、職務にあって厳しい目付きで怪人を睨み付けている。激し
い房事にあった男の、それも肩口を正確に狙い撃ちしたのだから、射撃の腕にもかなりの自信が
あるのだろう。一歩間違えれば被害者とも思える少女に当たりかねない。
四人の部下の銃が、コックを上げたまま大ロントルに矯められている。こちらは射撃の才に自
信がないのか、少女を巻き添えにしないためにか撃鉄を打ち下ろしていなかった。
「なんだ、おめぇらは……」
少女と結合したままの体勢で、それでもさすがに交接運動を中断して、大ロントルが言った。
男女の交愛している部分から、粘り気を伴った精液が激しい血流と共に滴り落ちる。その陰茎は
まだ脈打ちを完全に遂げておらず、入りきらない半分近くが卑猥に律動している。少女も、男よ
りも長い余韻の中にあって全身を紅潮させながらガクガクと痙攣させつつ、なされるがままに抱
えられていた。
巌の大ロントルは目線を落とし、自分の上腕に穿たれた弾丸を見た。そして視線を部屋の入り
口を占めている治安兵たちのほうへと向ける。
その時になって治安兵たちは、大ロントルの眉間に埋まったままになっている弾丸を確認した。
初老の支部長が放った弾丸である。
「ひっ、レっ、レベラッ!?」
隊長の脇で構えていた痩身の一兵士が、怯えてつい叫んだ。
「うろたえるなっ!」
若い隊長が制すると、十歳は年長であろう部下が萎縮した。
「レベラに怯えてなんとするっ。法を執行する者として未熟だぞっ!」
しかし隊を率いる彼にしてみても、平易に冷静さを維持出来なかったのが事実だ。
市民からの連絡があってこの盗賊の巣に突入したのだが、強行突入してからの惨状には、目を
覆うものがあった。本来の住人である盗賊たちは、みなほぼ一撃で殺められ、臓腑やら脳髄やら
を邸内の各所に飛び散らせていた。ギルド内で働く女たちも惨たらしい有様で殺され、うち数名
には中途半端に陵辱された形跡すらあった。股間の割れ目を、そのまま臍上まで延長したような、
刃物傷を見たときに、吐き気と共に怒りを覚えもした。
そのような凶状から、犯人が心身ともに常人ではなかろうことは簡単に想像がついたし、それ
なりの覚悟もしていた。だが銃弾を食らって、しかも直撃を食らってまで活動できるレベラが相
手ともなると具合は芳しくない。早めに増援部隊を要請したのも、今となっては正しい判断であ
ると確信していた。
(増援が着くまでこの膠着を維持せんといかんな……)
若い隊長は端正な甘いマスクを凄ませながら覚悟した。冷静に職務を遂行することで、自身の
平静を保とうとも試みる。
「おとなしく投降したまえ。見たところ丸腰では、いかに腕が立とうと不利はぬぐえまい」
虚勢だとは隊長自身でも解っていた。大男が、部屋の隅に転がっている得物と思しき大斧まで
到達し、反撃するまでの間に残された攻撃手段は銃弾四発。それだけでこの狂える異能者を仕留
められるとは思えなかった。
「トウコウだぁ? テメェ、この俺様を誰だと思ってやがる?」
少女の中に充分に精を搾り出した大ロントルは、男根を引き抜くと振り向いて凄んだ。巨大な
占領者がいなくなって空白地になった少女の膣からは、大量の精汁と血液があらためて噴出し、
木片の瓦礫と床を無作為に塗る。
「動くなと言っているっ!」
若い隊長が律した。後方から従者が差し出した新しいマスケット銃を横目で確認すると、射撃
済みの銃と持ち替える形で受け取る。その隙に突撃を受ければ確実に致命的だが、巌の肉体を誇
る犯罪者は余裕を持って微動だにしなかった。性欲を果たして満足し、多少とも穏やかになって
いるのかもしれない。幾分だが、人間の表情を取り戻しているのは、同様の理由からであろう。
「へっ、兵隊にも多少は肝の座ったヤロウがいんだな」
大ロントルが大仰にふんぞり返る。いつ撃たれても無事であるとの自信に溢れていた。じっさ
い撃たれたところで無事なのは間違いない。レベラ同士の闘いで三発も被弾して無事なのだから、
彼ら一般人と思われる連中の銃弾など、豆鉄砲の役も果たしはすまい。
「俺は『大ロントル』様だ、だから誰の指図も受けないっ!」
どんっ、とまるでお決まりの動作で自分の胸板を叩いて見せる。屈託のないその仕草は、犯罪
の意味すら知らない純粋――に愚か――な者も見えた。
だからこそ、若い隊長と治安兵たちは困惑した。どうにも眼前の凶暴なはずの犯罪者からは、
悪気というものが感じられないのだ。普通、凶悪犯でなくとも罪を犯す者は、独特の暗い表情を
宿すものである。罪や人道の禁忌を破る後ろめたさや、あるいは確信犯であっても何かに陶酔し
たような表情を見せたり、とにかく一般人とはなにかしら違う表情を見せるものだ。しかし、こ
の大ロントルという男は、これだけの凶行に及んでおいて、まるで悪びれた素振りも見せない。
「ロントル? 古文書か歴史書にでも出てきそうな大した名前だな?」
「ふふん、そうだ、大ロントル様だっ!」
話題があれば言葉の応酬で時間が稼げるので、隊長としても救われた。対峙している凶悪犯が
素直に投降する気配を見せない以上、いずれ強行での捕縛作戦を行う必要があることは早くも想
像はついたが、増援部隊が届くまで迂闊な動作をすればレベラ相手に瞬く間に全滅させられてし
まう。大ロントルという青年が会話に乗ってきたのは、なんとも運の良い展開であった。
もっともこの場合、運が良かったのは話題があったこと自体もそうだが、それ以上に若き隊長
が、ロントルという名前に否定的な返答をしなかったことである。ロントルの呪縛を受けている
大ロントルにしてみれば、その名を愚弄されることは立派に報復を行う理由でもあり、実際に老
支部長もそれが原因となって寿命を縮めもした。運の良さというパラメータがこの世の人間にあ
るとするならば、間違いなく老練な支部長より、この若い士官のほうが高いだろう。
「で、どうすんだ、いつまでもニラメッコかい? 俺は自分の女を取り返すためにここに来たん
だぜ?」
「自分の……女だと?」
隊長は犯罪者の横で吊るされている少女を見た。少女は快楽の余韻でうなだれ、まるで屠殺場
の肉牛みたいに天井の滑車からロープで吊り下げられている。
「その、なんだ――」
口から言葉が出ない。若い隊長はどうやら性的な経験に乏しいか、はたまた潔癖症であるのか、
少女の淫状を言葉に表して出すのに抵抗があるらしい。
「――その……酷い目にあわされた娘さんが、お前の女だというのか?」
「あぁ、そうだ。これは俺専用の性欲処理女だ!」
さも当たり前に言う大男に、隊長は一層困惑した。
(やはり狂人か……)
そうは思えど、それでも隊長は時間を延ばそうと会話を続けた。時間さえ稼げば増援が来て、
衆寡の差による有利な交渉も不可能ではなかったからだ。最悪の状況に至っても増援さえあれば、
彼が士官学校で修めた対レベラ戦術の遂行も出来る。彼らのような常人が、法外に強力な白兵戦
能力を誇るレベラに拮抗するには、原始的とはいえども数に頼る必要があり、ゆえになにがあっ
ても増援の到着まで現状の寡兵による決戦は避けねばならなかった。
「彼女はお前の奴隷なのか? ならば奴隷所持証を提示したまえ」
それが不毛な要求だとは知りつつも、言葉のやり取り上必要だったこともあって、隊長は法知
識を材料にして犯罪者との会話を伸ばそうと試みた。話題が途切れれば、なにごとにも磊落すぎ
るであろうこの犯罪者を留めておくことは困難である。どうあっても、大ロントルを飽きさせて
はいけない。犯罪者相手にエンターテイナーになるのも奇妙な話ではあるが、話題を伸ばして興
味を抱かせ続けねば身の危険を回避出来ない。
「ショジショウ? ねぇよ、そんなモン」
当たり前だと言わんばかりの態度で、大ロントルが返した。
「定められた所持証無く奴隷を持つことは、法的に問題があるのだがね」
「こいつは奴隷じゃねぇ。俺の所有物だ!」
さらに道理の通らないことを、堂々と言う大ロントル。
「奴隷は人的財産として、陛下が定められた法により人権が与えられているのだぞ。奴隷だから
好き放題やれる世の中は、もうとっくに終わっているのだ」
「法なんか知らねえよ。そんな自由を縛り付けるモン、糞食らえだァ」
「自由を縛り付けるだと……。お前は法を蔑如するのか?」
「ベツジョ?」
「軽んずるという意味だ!」
「あぁ、なるほど。軽んずるもナンも、そんなモン、ハナっから気にしてやしねーけどな」
「なんだと?」
つい隊長は語気が荒くなってしまった。職業柄、遵法精神を叩き込まれている彼にとって、大
ロントルの言葉は許し難い言葉であった。彼は常日頃から、すべての人間が法に従えば争いなど
なに一つなくなると信じていた。若さが盲信させる理想論ではあるが、若いゆえにそれを疑いな
く信奉することも叶った。
(こんな奴がいるから、いつまで経っても犯罪が無くならないのだ……)
若い隊長は憤った。法が、ある程度だが役に立つ都市という空間だけが彼の世界であり、その
外の世界はほとんど知らなかった。だから、法を犯す者は単純に悪であり、制裁を加えるに値す
る対象である。その悪がのうのうと法を侮蔑し、自在に世の中を闊歩しているだけで、彼にとっ
ては許されない事実だった。
「おめぇみたいに、法だ、規則だ、世間体だァに縛られてる奴見るとムカつくんだよ。へっ、哀
れだぜ、青犬風情がァっ!」
青犬とは、治安兵の青い制服を指して愚弄する言葉だった。犬とは、説明するまでもなく、国
家権力にかしずく姿を飼い犬に喩えている。そんな大ロントルの追撃に、若い隊長はいよいよ度
を失った。
(縛られているだと。哀れだと。この私が、犯罪者風情になんという屈辱……)
彼の心中にどのような怒りが込み上げたのかは解らない。だが、一瞬だけ彼は、引き金にかけ
ている指に力を入れた。年齢に似合わぬ沈着冷静さを持っていそうな隊長が、なぜ大量殺戮犯の
些細な挑発に過敏に反応したのか、理由は解らない。確かなのは、今この場の彼が感情的である
ということだけだ。
その様子に気付いたのか大ロントルが続ける。
「へっ、図星か? おめぇみたいにお堅い奴ってのは、クソつまらん悩みを持ってんのがタイガ
イだからな!」
「黙れっ! それ以上本官を、いや、法を愚弄するなっ!」
隊長は、いつの間にか大ロントルの調子に乗せられていた。些細かもしれないこの会話が、な
ぜか異常なまでに青年隊長の神経を逆撫でしている。若くして隊長格に就いているエリート青年
に、なにかしらのトラウマめいた過去でもあるのだろうか。
それ以上同様の会話が続けば、隊長は発砲していたかもしれない。そうなれば彼を含めた治安
兵たちは、瞬く間に大ロントルを名乗る屈強の犯罪者に屠殺されていただろう。
だが、ぎりぎりのところで吉報が届いた。隠密行動で現れた伝令兵が大ロントルから見えない
廊下の壁裏から「増援到着」のサインを表したのである。あやうく我を忘れかけていた若い隊長
は、それで正気を取り戻せた。
「でよぉ、ホントにニラメッコならやめようぜ。」
狼狽していた隊長の姿が愉快だったのか、大ロントルが、からかうように肩を揺らして告げる。
「あぁ、そうだな。お前がおとなしく投降してくれればそれも終わるよ」
一瞬でも平静を欠いた自分を律するように、銃を矯めなおす青年隊長。
「これは命令だ、直ちに投降せよっ!」
厳しい口調で告げた。途端に高圧的になった隊長に対し、今度は大ロントルの心中に不愉快さ
が募った。今までは控えめにしていた相手だから見逃してやっていたのに、なぜか突如と高圧的
な示威行動に出た。多少でも思慮の叶う人間なら、この豹変に裏があることを想像出来るだろう
が、呪詛により狂人と化している大男に、そんな冷静な思考が働くはずもなかった。
「ほぉ、おめぇ、面白いこと言うな? じゃ捕まえてみろよ?」
本性を見せたとばかりに口の端を歪めつつ、挑発的に両手を挙げて間合いを詰める大ロントル。
そんな犯罪者のあまりに横柄な態度が許せなかったのか、銃を構えていた四名の部下のうち、
最も体格的に整った一人が進み出た。革ベルトに吊るしてある簡易ピラリィ(首と両手首を挟ん
で固定し、さらし者にするための板状の拘束具)を取り出した様子から、どうやら大男を捕縛し
ようと試みている様子だ。
「ばかものっ、やめんかっ!」
危機を察して隊長が制止した。だが、上背だけならば大ロントルにそれほど劣らないその男は、
自分の腕力と捕縛術に自信があるのか、土地の格闘家に見受ける独特の構えを取ると、大ロント
ルを捕えようとさらに前に進んだ。拳ダコがあるあたり、街道場などで鍛錬を積んでいる部類の
人物だろう。あるいは、育ちの違いだけで自分より若年で隊長になった若造に命令を受けること
が、そもそも不愉快だったのかもしれない。士官教育を受けていない非富裕層の一兵卒にとって、
昇進の手段は手柄を立てることだけである。だからこそ勇み足になった。
「大丈夫ですよ。レベラといっても丸腰なら腕力勝負。私の格闘術で捕獲してみせ――」
「なめんじゃねェッ!」
大ロントルの裏拳が、治安兵の頬を薙ぐようにして打つ。打たれた兵士は、重量からは想像も
つかない勢いで吹き飛び、壁に叩きつけられた。その体勢から床に崩れ落ちても、声すらまとも
に出なかったところを見ると、瞬時に絶命した可能性もあった。顎関節は完全に横に外れ、頭蓋
の形もいびつに歪んでいる。
臨機状態にあった他の兵士に緊張が走った。
公務に対する妨害。治安兵への暴行。すべては強権発動の充分な理由となる。投降の可能性が
あり得ないとあっては、もはや捕縛を考慮せず、目的はただ一つ。射殺による鎮圧だ。
「撃てっ!」
非道の振る舞いに対し、若い隊長は発砲命令を下した。声には冷静さが充分に戻っていた。構
えていた残りの三兵士が一斉にマスケット銃を放つ。的確に狙いを矯めていた銃弾は、間違いな
く大ロントルの各急所に着弾した。だが着弾と同時に大ロントルの体表に淡黄色の小さな力場が
発生し、銃弾の破壊力をほとんど相殺した。
レベラの持つ被害緩衝能力、『生体防御力場』である。
「ひけっ!」
直後、撤退命令を出す隊長。三人の兵卒は廊下へと姿を消した。遅れて隊長も殿(シンガリ)代わ
りに一撃を放ち、素早く廊下へと脱出する。
「テッポウダマなんかで、この大ロントル様が、やられるかってんだよォォッ!」
怒声を上げながらも、人間の持つ反射本能で一瞬だけ目をつむったため、動きが留められた巌
の青年。若い隊長が放った一撃は、怪人大ロントルの右目を狙っていたのだ。
「コゾウ、ふざけやがって……」
巨躯の怪人は忌々しそうに悪態を吐くと、『偉大なる大ロントル様』に向けて発砲した愚か者
たちに制裁を加えるべく、のしりのしりと廊下へ歩を進めた。得物である斧すら持たず、徒手空
拳で進撃を開始したのだから、いくら自分の防御能力に絶大な自信を持っているとはいえ、その
所業は紛う方なく狂人のそれである。
廊下に待ち構えていたのは三十余名からなる狙撃隊であった。邸内突入時に、現場の惨状から
犯人像の枠中にレベラも考慮した隊長が依頼した兵科は、すべてが遠距離攻撃を可能とする銃兵
部隊だった。
最前列の五人が一斉射撃した。
「なめんなァツ!」
絶叫する大ロントルに五発のうち四発が着弾し、すべてが淡黄色の生体防御力場で相殺された。
「怯むなっ。次列、素早く矯めて……斉射っ!」
若い隊長の号令で、次列が前列と入れ替わり五名が一斉に発砲した。
「こんな弾でェェェェェッ!」
全弾が命中し、うち一発に対して生体防御力場の展開が遅れた。大ロントルの左鎖骨が砕ける。
続けざまに第三列が前進し斉射する。
「大ロントル様があァァァァッ!」
一発が逸れて、それ以外は着弾した。
連続して的確な生体防御力場を展開させることが間に合わなかった犯罪者の各所に弾丸が縫
われ、血の噴水を作り出す。明らかに初斉射の時よりも生体防御力場の輝きは弱かった。物理攻
撃に無敵と思われる異能者であっても、知覚と判断の間に合わない連続攻撃の前には、意外なほ
どに脆さを露呈する。その隙を見逃さず、同時に多くの箇所を攻撃し緩衝力場の密度を下げる。
それこそが、一般人がレベラを倒すための汎用的で有効な戦術であった。
「残弾斉射っ! 縫いまくれっ!」
隊長の号令で、二列のひな壇状に構えた最終集団が、十人編成で一斉射撃した。
「がぁぁぁぁっ!」
八発が着弾し、大ロントルを称する男の前面は吐血孔だらけとなった。かろうじて発生した生
体防御力場も無差別に広範囲にわたって展開されたせいもあって、あまりにも密度が希薄で、初
速が音速に至る弾丸の威力を相殺するに足りなかった。
「撃ち方やめっ」
遅れて到着した予備の狙撃隊十名が、さらに追い討ち体勢に入ろうとしたときに隊長が指揮
サーベルを下げて制した。
硝煙が廊下に充満し、沈黙が訪れる。
少し間をおいてから。巌の殺戮者大ロントルが、ずでんどうと倒れた。
こうして、怪人一体による、ジタオギルド六十七名に対する惨殺事件は、幕を閉じた。
その後、ギルドの検分を行う治安兵たちの中で、現場のあまりの酷さに卒倒する者が続出した。
邸内は、そこかしこが人の髄質で左官されていたからだ。
戦場を伝聞でしか知らない二十代以下の若い治安兵たちにとって、部位ごとに斬り刻まれ、た
んに部品となった人体は、あまりに惨たらしく非日常的な恐怖と嫌悪の対象でしかない。平和な
時代に生きる治安兵が、その凄惨たる有様を容易に受け入れられないのは仕方がなかった。
その体たらくに呆れたり同情したりしながら、旧軍時代に戦場を経験していた世代の治安兵た
ちが淡々と仕事を進めた。若い隊長も生理的嫌悪を感じていたものの、すでに邸内突入後からま
ざまざと見せ付けられた現実のおかげで、段階的な思考の麻痺をもって恐怖を制してしまったの
で、比較的冷静に検分の指揮が出来た。
やがて、滑車とロープで天井から束縛されていた少女小ロントルを解放すると、自分の士官用
外套を被せたのちに、部下に軍病院への護送を命じた。
だが少女は、その場をなかなか動こうとしなかった。
しばらくして少女が凶悪な大ロントルを気にしている様子を悟った隊長は、搬送される大ロン
トルの遺骸を検めるかと尋ねた。
救出された被害者が加害者に罵声を浴びせたりすることは、過去の現場でもよくあったことだ
し、それで少しでも被害者の気が紛れるのであれば、それもいくばくかの救済処置である。とく
に強姦などという極めて卑劣な犯行ならば、犯人がその程度の制裁を受けることは当たり前であ
る、と若い隊長は考えていた。ときおり被害者の憎悪が限界を超え、刃傷沙汰にまで及ぶ危険な
例もあったが、今回の件では犯人はすでに息絶えているのでその心配も無い。
そのように、いつもながらのつもりもあって、若い隊長は被害者による検分を許した。
だが、それを許したことを、のちに彼は激しく後悔することとなる。
彼の人生経験ではあり得ない驚愕だった。「あり得ない」のではなく「あってはならない」が
正解だったかもしれない。法としても、教義としても、人道としても。
まだ、子供の面影をたっぷりと残す少女が、自分に男根を挿入し、あまつさえ射精にまで至っ
ていた凶悪な巨漢の骸にすがり付きに叫んでいた。
「お兄ちゃん! 死んじゃいやぁぁぁっ!」と。
若き隊長、治安部隊士官『コリアン・ロイト大尉』の脳裏に、その少女の叫びが長いことこび
りついて離れなくなった。
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